翌朝、寝坊はしなかったが、作品を夢中で作成した後の我が家は悲惨な状況で(苦笑)、あまりにひどかったので片付けに追われていたら、予定の電車より一本遅らせることになった。何せ購入した花の半分しか使用しなかったので、残りの花を水揚げしなおし、鉢物の花は外に置いて水をやり、引き下げてきた作品に挿した花も全部抜き取り花瓶に入れなおししていたら、1時間以上はかかってしまった。
金沢駅で、日経ビジネスAssocieを購入した。知的レベルを上げるためだ(笑) HAに会うときはいつもそうだが、一週間分の新聞の一面や政治経済ニュースを拾い読みしたりして、知的レベルを上げないといけない・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ってこともないんだろうが、そうしたくなる理由があった。彼はそんな一日中政治経済を語る人間ではないが、時々そんな話題を出す。「麻生が」「小沢が」「ユーロが」・・・・・・・・。彼と対等に政治経済を語る必要はない。ただ、「ああ、知ってる」という顔で聞いているのとそうでないのとは大きく違う。そして、彼は、「ああ、それね」「その事件ね」「その判決ね」「その条例ね」という顔で(決して知ったかぶりはしないが)、態度で、彼の話に耳を傾けるの私が、好きなのだ。
だから会うときはいつも、お肌のお手入れはもちろん、体重が増えないようにすることはもちろん、無駄毛のお手入れはもちろん(笑)、頭の中も整えておかないといけないのだ。というより、そうしておきたくなるのだ。
背伸びをしてるって?無理をしてるんじゃないって?
それが苦じゃなくて喜びで快感だったらどうする?(笑)そんな男に抱かれたいと、この胸が、子宮が欲したらどうする?
服装だって、化粧だって、髪型だって、「私自身が気に入ってる風」をよそおいながら、本当は彼に好かれようとしているのがみえみえでもいいじゃない、恋愛ってそういうもんじゃん。
特にこの一週間は「花」に全力投球したお陰で、世の中のニュースなんて何にも知らなかった。私はビジネス雑誌を片っ端から”みっちり”読みながら、暖かい日差しに包まれる富山の、新潟の農村の冬景色を時々車窓から見ていた。雪はほとんどなかった。
東京駅には3時過ぎに到着し、そのままホテルに直行した。まだHAからなんのメールもなかったが、連日激務で働き、昨夜も朝の4時過ぎまで仕事をしていたんだから、今日も5時過ぎるまでは会えないだろうと思っていたから不安はなかった。作品作りに忙しいさなかに探したホテルは、新橋駅から近く、窓からは東京タワーと夜景がきれいに見える部屋だった。
予想通り、彼は5時過ぎに現れた。よく寝たお陰か、すっきりとした表情だった。1ヶ月半ぶりに会うからなおさら気恥ずかしい思いがした。彼が来るまでに、コンビニで水やビールを買って用意しておくことを忘れなかった。彼がいつもホテル代をもってくれるので、そうしないわけにはいかなかった。
銀座のITO-YAに行った。彼がいつも使っている(高そうな・笑)ボールペンの替え芯が欲しいと言ったからだ。あん?替え芯?明日でもいいじゃん・・・・・って思うけど、彼は今現在の欲求が満たされないと次の行動に移れない性分だから、ここは素直に従う。もう慣れっこになっていた。銀座なんて人の多いところ、知っている人に会わない?大丈夫?なんて思いながら・・・・・・。陽気にしゃべる彼の横を、半歩遅れて歩く。後ろめたい気持ちはいつだって隣り合わせなんだから。
「すき焼きとしゃぶしゃぶだったらどっち?」と彼。「すき焼きかな?タマゴ好きだから」と私。「ああ、俺もなんだよね~」。
私たちはことごとく意見をぶつけ合うのに、食べ物の趣味は似ている。欲の共感は大きいのかも知れない。 今回の花のコンテストの話は、そのほとんどをホテルで話してしまったし、私は彼の話が聞きたいから、彼がメインで話はすすむ。彼の仕事は人事だから、その一人ひとりの「異動先」に苦労している。
「もう人身売買の世界だよ」
都庁職員の業務成績は5段階、「5」の評価は全体の1割、「4」は2割、「3」がもっとも多く4割以上、「2」「1」は1割~2割。「1」はほとんどないという。
「5」の職員を異動させるときは、逆に「5」の職員を他から「とって」こないといけない。異動が成立しない。つまり成績で異動先、トレード対象が決まってくるわけだ。そして、昇格にも頭を悩ます。成績、入庁年数が横並びの職員が4人いても「係長」のポストが3つしかないとき、慣例では「産後・育児休暇」を取得した人(結局は女性)は外される。
「それっておかしいだろう」と、彼。
「どう考えたって、今は女のほうが仕事できるんだよ、現実。育児休暇をとったら昇進・昇格が遅れるってなったら、誰も子供なんか産まなくなるだろ?少子化の原因じゃん。それに、出来る(女性)職員の意欲も奪うし」
「でも」、と私は言う。
「出産っていう人生の選択を彼女は選んだのだから、そりゃー、30代は昇進とか遅れちゃっても、しょうがないじゃん。どんなに仕事ができようと、その職場にいなかったのは事実なんだし。30代だけで損得を考えるからいけないんであって、50代になってどうよ。そこで昇進が人(男性)より遅れることがそんなにマイナスになってるのかな~?できる人なら、尚更影響ないでしょ。むしろ、育児に重点を置いたが為に、仕事の第一線から”いっとき”身を引くことが、その人の人生にとってマイナスになるとは思えない。本当にできる人ならね。 確かに、女性の方が仕事が出来るってのは想像つくよ。マジメだし。でも、私からすれば、男の人生と女の人生は違うのよ。デキル女の人生って、出産で左右されたり、ましてや”損”しないと思うけどな。」
「都庁は他の道府県と違って、女性の管理職の割合が高いんだ。これからはもっとそうしていかないといけないし、結局官公庁だって、「利益」を追求されていくから、できる職員を管理職において重宝しないと、生き残っていけないんだよ。」
「わかるよ。営利を追求する会社なら、男女別なくデキル人材を確保しなきゃいけない。でもさ、少子化云々の話を混ぜると、違うと思うな。仮に、育児休暇取得しても昇進が保障されているとなっても、じゃあどんどん産もうって思わないんじゃない?むしろ、仕事で評価されることが多くなると、仕事にのめりこんで”出産”っていう選択しないんじゃない?
うちの店長(44歳・女)さ~、もう結婚になんてこれっぽっちも興味のない人で、仕事一筋にきてさ~、最近ことあるごとに、「一人くらい子供を産んでおけばよかった」って言うの。40過ぎて急によ。シングルマザーになってでも・・・・だって。女の出産には「期限」があるからこそ、一番大事な時に仕事を選んでしまうことが、結局は”後悔”につながる気がするのよね~。女には男と違って、そんな大事な選択もリスクもあることを承知で社会でどう生きていくか、評価を得るかを考えなきゃいけないわけで、だから・・・・・・・・・・・なんて言えばいいの?私は、昇進が約束されているから安心して出産・育児、って言うのじゃなくて、何かを得たら何かを失う、それでも、出産という選択を選んで、そのぶん一生懸命子供を育てることに頑張ればいいと思うの。やがて、子供は大きくなる。本当にできる人なら、そこから復帰しても、彼女自身にも、そして「会社」にも損はないと思うんだけど・・・・。」
「俺たちはそんなに違ったことを言ってないんだよ。お前の理解力が足りねーんだよ(笑)」
私たちの会話っていつだってこうだ(苦笑)
自分論の目白押し、そして両者一歩も引かず・・・・・・・・・・。かわいくないね、私。
「で、」と私。「HAは人事なら、その評価を見ることはできるんだよね~・・・・。」
「見れるよ、俺と、もう一人、課長補佐な。」
「で、どうなの?」
「過去5年間しか見れないようになってんだけど、ここ最近(5年)は”5”かな。・・・・・・・・・(彼は自慢話が嫌い)ああでも、前の職場の時は多分”3”だろうな~(笑)。定時に速攻帰っていたし、職場であーだこーだ愚痴ってばかりいたし・・・・・」
彼はその”1割”の人間か・・・・・・・・・・・・。
私は何も疑っていない。ああ、彼ってそんな人。反逆児で、簡単には周囲に迎合しない人間だけど、結局”デキル人”。
職場で彼一人だけ「鉛筆」を使い、鉛筆削り(電動)機を自分の席に置き、身分証明証の写真は入庁以来一度も替えず(そんな人いないらしい)、首から下げるそのクリアケースもセロテープで補修して使い(職場にいくらでも新品があるのに)、あぐらをかけないといやだから、一人で綿のでた古い大きい椅子を(ゴミ置き場から拾ってきて)使い、そっくり返って書類に目を通す。
そう、彼ってそういう人。
「ねえ、今度異動なんでしょ?」と私。「その椅子、背中に担いでいくの?そのまま置いていったら、次の人大迷惑じゃん(笑)」
「そうだよな(笑)」
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